かみ合わせと予防歯科
現代人は歯並び、噛み合わせが悪い人が多くなってきている、といわれております。
その原因はどこにあるのでしょうか?
現代の日本人は柔らかいものを食べることが多く、噛みごたえのあるものを食べなくなってきている、からであると言われております。
すなわち堅いものを食べないから顎が発達しない。
だから歯が並びきらなくて歯並び、噛み合わせが悪くなる、と言われております。
たしかにそれも原因の一つでしょうが、すべてではありません。
もしそうだとしたら、ファストフードを多く食べているアメリカ人は不正咬合の人であふれてしまうでしょう。
でも実際はそうではありません。
それではなぜでしょう。
顎の成長発育は生まれた瞬間から始まっています。(実際は精子と卵子が受精した瞬間からですが、母体にいる間はここでは考えない。)
顎は噛むことと舌により刺激を受けて成長します。
新生児、乳幼児は歯が無くても母乳(乳首)を噛むような顎の動きをして飲みます。
この時期、母乳が出すぎる母親、穴の大きい哺乳ビンで育てられると、ちゃんと筋肉を使って吸ったり噛まなくても口をつけているだけで口の中にミルクが入ってきておなかがいっぱいになってしまいます。
赤ちゃんにとっては楽ですが、これでは顎はしっかりと成長発育しません。
もうひとつ、オシャブリをくわえている赤ちゃんを見たことがありますか。
2才くらいまでなら見かけることはあるでしょうが、それ以降はあまり見かけないでしょう。
ところが最近アメリカやヨーロッパでは4、5才になってもおしゃぶりをくわえた子どもが多く見られるようになってきました。
これは、オシャブリにより噛むこと、舌を使うことを自然に覚えさせる新しいタイプが出現して来たからなのです。
新しいタイプのオシャブリは顎の発達に一役買っているのです。
また、よく噛むことにより唾液がたくさん出てきます。唾液の重要性については後でまた述べます。た
だし、オシャブリには形、材質などいろいろなものがあるので、歯並び、顎の成長に適したものを選ぶことが大切です。
アメリカではオシャブリを止めるくらいの年齢になると今度はガムを噛むようになります。
しかもアメリカで売っているガムは日本のガムよりはるかに堅く、虫歯を作らない甘味料を使っています。
しかし日本ではガムは虫歯になるからといって、食べさせない親が多く、その割にはおやつにスナック菓子を食べさせている、とい
う場合が多いのではないでしょうか。
よく、歯並びの悪い子の親に「堅いものを食べさせれば歯並びは良くなるでしょうか」、と聞かれますが、先に述べたように顎の成長は生まれたときからの積み重ねであって、小学生や中学生になってから急に堅いものを食べたからと言って、顎が急に大きくなるものではないのです。
顎の発育には、小さいときからよく噛むこと、よく舌をつかうことが重要なのです。
噛むことの重要性について
良く噛むことは、先に述べたように顎の成長にとって重要なことですが、それ以外にも大切な関りがあります。
良く噛むと、脳への血流が良くなります。
すなわち脳へ酸素が多く供給されるのです。
そのことにより頭が良くなるかどうかは解りませんが(マウスを使った迷路の実験では効果が確かめられていますが、このまま人間にあてはまるとは限りませんが)少なくとも集中力が増したり、眠気が解消されたりすることはあります。
また、今までちゃんと噛めなかった御老人が入歯を治して噛めるようになると、血圧が安定し日常生活もイキイキと活動的になり、更に健康に向かうということは日常の臨床でもよく出会うことであると聞きます。
また、良く噛むと唾液がたくさん出ます。
唾液には緩衝作用といって酸を中和する働きがあります。
酸によって歯が溶かされる現象が虫歯です。
すなわち唾液がたくさん出るほうが虫歯にはなりにくいと言えるのです。
もうひとつ唾液には成長発育や、病気の予防にとって欠かすことのできない多くの物質(ホルモンや酵素)が含
まれています。
健康のためには良く噛んで唾液をたくさん出しましょう。
歯科矯正の必要性について
歯科矯正とは、悪い歯並びや噛みあわせ(これを不正咬合あるいは咬合異常といいます)を矯正装置を使って、正しい歯並び、噛み合わせに治すことをいいます。
では、不正咬合はそのままにしておいても良いのでしょうか?
たしかに、不正咬合は、虫歯や歯槽膿漏と違い、痛かったり、腫れたりしないので緊急性が少なく、それほど重要に受け止めていない人も多いでしょう。
また、歯並びが悪いことは、見た目が悪いだけではないかと考える人も多いと思います。
しかし、噛み合わせと全身との関りが最近注目されてきています。
(これは、旧厚生省が噛み合わせと全身との関りに関するための研究予算を計上したことからも重要な問題であることがお分かりになるでしょう。)
すなわち、肩凝り、頭痛、アレルギーなどの原因のひとつではないか、ということが言われております。
また、よく噛むことにより脳への血流がよくなり記憶力が良くなったとか、ボケが改善した等、テレビや雑誌にもよく取り上げられております。
すなわち、噛み合わせや歯並びはただ見た目の問題ではなく、全身の事、健康の源と考えて下さい。
その他にも、不正咬合による悪影響としては。
A:虫歯や歯槽膿漏になりやすい。
これは、歯が重なり合ったところは歯磨きが十分にできず、そのためそこから虫歯や歯槽膿漏に進行しやすいためです。(写真参照)
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写真①で、矢印↓の歯は前の歯に重なっているため一見すると健康な歯に見えます。 |
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しかし写真②のように、矯正治療により歯をそろえていくと、今まで見えなかった所が
よく見えるようになり、そこには大きな虫歯がありました(矢印↓の部分)。
左の画像をクリックしますと、拡大された画像が表示されます。
元の画像に戻すにはタスクバーの更新ボタンをクリックして下さい。 |
このように歯が重なり合った部分は歯磨きがしにくいため虫歯になりやすいし、虫
歯になっても気づきにくいのです。
B:.良く噛めなかったり発音が良く出来ない。
噛み合わせが悪ければ良く噛めないというのは、どなたでも解るかと思いますが、発音もはっきりできないこともあります。
すき間があればそこから息が漏れるし、噛み合わせによってはタ行、サ行、ラ行などの発音に影響します。
英語等の発音にも関係してくるので国際人を目指す人は早めに治したほうが良いでしょう。
C:.顔や背骨が歪む。
噛み合わせが右側と左側とで違う場合、顔が左右非対称に成長していくため、顔が歪んでしまいます。
また、その影響で背骨が左右非対称になり、姿勢にも影響することがあります。
以上のように、歯並び噛みあわせと全身の健康、また不正咬合による悪影響を書きましたが、予防の観点から言えば、不正咬合があれば早期に治療が必要であるし、よく噛むことが、病気の予防になるともいえるでしょう。